どの言葉をもってしてもこの実物を表現するには足りない。それほど素晴らしい織物がある。

手にとった人が息を飲み、身に着けた人が必ずと言っていいほど「優雅で高貴な気持ちになる」「色の調和が上品で綺麗」と絶賛するそれこそ『有職織物』である。

この美しい織物は、室町時代から500年余り続く西陣の織屋で受け継がれ、現代の福岡裕典に引き継がれています。 >>伝統工芸士 福岡裕典プロフィール


有職織物で一番大切なのは、かさねる『色』である

この使い方一つで品格が生まれ、また無くなることもある。この道に入った時、師匠から数多くの古い糸を渡され「これを見て植物染料本来の色彩を勉強しなさい。そして同じ色を現在主流となっている化学染料で出せるよう勉強しなさい」と言われた。

10年間来る日も来る日も自然が作り出した色、歳月の経過で退色した糸を眺め、化学染料を調合し勉強してきた。やがて植物染料と同じ色を作り出すことに成功し、自分の中に『色や色合わせに関する感性』が育って行った。

有職織物は、主に皇族方がお召しになるので品格が問われる。その上、襲ねて着るために軽さや柔らかさが要求され、襲ねた時に全 体の色や雰囲気が優雅でひとつひとつの文様との色調の調和美が求められる。

目立たずに目立たせること。色は薄くてもひとつひとつに精があり、模様がありながら1色の感覚のものを『品位を持って作る』ことが難しいのである。福岡が提案する帯は、色彩感覚が十二分に生かされ、他の人には出せない優雅な色合い、そして気品が保たれている。


なぜ化学染料で植物染料と同じ色を作り出せるのか?

それは、本来糸を染める時、専門業者である染工場では同じ色を繰り返し染めるため、相性の良い染料をできる限り種類を少なくして混ぜて染める。よって同じ色を繰り返し染めることができる。

しかし、福岡の染色方法は、相性の悪い染料をあえて混ぜて染める。調合の仕方が少なければぼけた色になる。多すぎればきつく、汚い色になってしまう。しかし、程よい調合をすることにより、調和の取れた色が生まれるのである。長年の経験と勘で同じ色を何度も作り出していくのである。


伝統工芸士 福岡裕典プロフィール

昭和45年4月 京都西陣(フクオカ機業4代目)として生まれる。
幼少期 学校から織場に直接帰り、製織の手伝いをする。
平成元年4月 (有) フクオカ機業入社。再度織物の工程である糸染、整経等、全てを復習。
平成8年9月 同社 代表取締役就任。
平成24年12月 西陣織製織部門 伝統工芸士に認定。
平成25年 日本伝統工芸展近畿展にて自身が制作した作品「有職唐花筥形」が入選。
顯紋紗を制作準備。